-啓示創世記-                                          



「私はどこから来て、どこに行くの」

一人ぼっちのイヴはいつも考えていた。
その日、気ままな夏雲が大地に大粒の雨を浴びせていた。イブは雷鳴を聞いたと思った瞬間、気を失った。

どれくらいの時がたったのだろう。あたりは真っ暗である。星がわずかに瞬いたと思ったとき「声」が聞こえた。

「創めに法理があり、故郷に帰る」

イヴ は声の主を探したが、誰もいない。しかし、声は心に響いてくる。

「誰?」

声が答えた。
「私は真宇宙そのものであり、サンスカラーの法理を示すものである」

イヴ は混乱しながら訊いた。
「真宇宙って?」

声 は、
「真宇宙は永遠であり、遊離し共鳴しながら対極を成す無限の世界である」と答えた。

イヴ がさらに、
「サンスカラーの法理は?」と訊くと、
「サンスカラーの法理とは、生きとし生けるものが求める宿命の道である」と声は答えた。

イヴ は声が自身の心の中から聞こえてくることにようやく気がついた。
「サンスカラーの法理はどこに、雲の上ですか?」

「そこにも存在する。しかし、石や土くれ、生きとし生けるもの、森羅万象全ての中にサンスカラーの法理は存在する」
「無心になって自然を見なさい」

イヴ には幼いときから気にかけていたことがあった。
「夜空を見上げるといつも不思議に懐かしい気がします。私が求めているものは真宇宙?」

「いや、違う」
否定してから声の主は続けた。
「真宇宙は源泉であって法理こそが求めるものである」

イヴは挑むように言った。
「真宇宙など知りません。現実の世界がすべてです」

声の主は創世を語り始めた。
「太古、真宇宙は透明な容力だけの世界であった。私は世界にゆらぎを与え、時空の共鳴を激しくさせて対極の世界を交接させた。刹那、その特異点で内包していた光容力が世界に放出した。そのとき、時空は高温、高密度の光世界になったが、急激な膨張が暗黒世界を現出させた。それから光世界と暗黒世界が生成と消滅を繰り返すようになった。暗黒世界の断片は黒孔となって物に重さの力を与えるようになった。

世界が冷却と凝縮を始めた頃、私は再び時空を共鳴させて光容力から粒子と反粒子を生み出し、それらには互いに作用する力を与えた。黒孔の境界域でも重さによる容力を放射させて粒子と反粒子を生成させた。粒子と反粒子はやがて交接をはじめ、新たな容力を生み出した。交接後には多く残った粒子が物となり、それによって新世界が創られた。」

「物の根本は何ですか」

「世界の誕生後、光の容力は光子を生み、粒子は陽子、中性子、電子に姿を変えた。陽子と中性子の一部は原子の核となり、電子は光容力の吸収と放出を繰り返しながら原子の核と容力の混在する世界を遊泳した。世界がさらに冷えると、原子の核は光子を放出しながら電子をつかまえて物に変わったのである。」

イヴは顔を曇らせた。
「そんな話は理解できません」

声の主はかまわず話を続けた。
「理解できなくても、感じなさい。空を見上げると冷えた世界から放射される理熱を感じるだろう。世界の創造の証を」

イヴは夜空を見上げた。星が美しく瞬いている。
「どのようにして星は生まれたの」

「私は力によって物質を呼び寄せ、銀河を創った。銀河をつくる光の小島が星である」
「星はどのくらいあるの?」
「無限といってもよいほどである」
「時の流れも無限?」
「この世界の時には限りがある」

少し不安げにイヴは口を開いた。
「星にも終わりがあるの?」

「星は物が黒い金に代わるまで原子核の融合と分裂を繰り返すが、この大地が出来てから今までと同じ時の流れを経てから燃え尽き、あるものは大爆発して、あるものは縮小して形を失い終焉を迎える。そして、世界もまた永遠ではない」
「世界にも終わりはある・・・」
「終わりがなければ新たな世界が生まれない」
声の主は続けた。
「世界は今も膨張を続けている。それに伴い世界にある物質と暗黒の物質が少なくなって、見えない容力が増大する。この容力は異なる次元の世界のものであり、知られることはほとんどないが、自然の中で心を開けば、その存在を感じることも可能である。異次元容力が全てを支配したとき世界は終焉を迎える」

イヴは天を見上げた。
「その容力は死神だわ」

「それは違う。異次元容力によって生命は誕生したのだ。森羅万象に『精気』を与える生命の根源である」
「わからない。生命を与えながら、世界を滅ぼすなんて」
「生命を与えるがゆえに、世界には時の限りが必要なのである」
「異次元容力がなぜ生き物を滅ぼすの」

「世界の創世以後、異次元容力が徐々に増えて暗黒物質や物質、物質容力を超えたときに、ようやく世界に秘められた生命が始動した。異次元容力は精気となって物に命を与えたのだ。だから死神ではなく、生命の神である」

「生命の神が、なぜ世界を滅ぼすの」
イヴには理解できなかった。

「生命は精気がなければ生きられないが、暗黒物質や物質、物質容力がなくても生きることは出来ない。異次元容力が力を得ることで世界に生命が誕生したが、世界の物質容力には限りがある。生命には滅びるまで試練の時を生きなければならない。それが宿命である」

イヴは話を聞いて動揺した。
「異次元容力はどのくらい増えたの?」

「現在、異次元容力はすでに7割を占めるまでに増大した。今後徐々に生命の生存可能な環境は失われていく。そして世界創世から今までの7倍の時を経て、世界が全て異次元容力で埋め尽くされたとき、真宇宙の共鳴が再び起こって、この世界は終焉を迎える」

イヴは抗議した。
「世界と生命体を作っておきながら、なぜ滅ぼすのですか」

「滅ぼすことで新しい世界を創ることが出来るのだ」
「そんなことって・・・」

イヴは寂しそうな顔でつぶやいた。
「私たちの住むこの大地もそのときなくなるのね」

「いや、地球はもっと早く消滅する。これから太陽が徐々に輝きを弱めていき、この星の軌道を飲みこむまで巨大化するから。しかし、そうなる前にあなたの子孫は最も近いケンタウルス座の惑星に移住するはずである。ただし、どの星に移住しようとも世界の膨張は止められないから、いずれ滅ぶ時がやってくる」

イヴは真剣な顔をして聞いた
「私たちが生き延びる方法はないのですか」

「異次元容力の広がりはどこでも起こっている。しかし、現在の世界から新しい世界へと時空を転移することで生命を繋ぐことは可能である。そのためには真の科学を発展させなければならない。また、生命は世界に秘められたサンスカラーの法理を思想によって悟らねばならない。科学の発展と思想がなければ転移を可能とする方程式は解けず、消滅する宿命を回避することはできない」

イヴの表情に希望の光が見えた。
「かならずしも滅びるわけではない」

「わが子イヴよ。私はサンスカラーの法理を悟らせるために命を生み出したのである」

自分の名前を聞いたときイヴは目覚めた。
すでに雨は上がっていた。15万年前のアフリカの大地での出来事であった。
彼女こそが人類の母「ミトコンドリアイヴ」である。



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