-ラプラスの悪魔-


■ ラプラスの悪魔 ■(Laplace's demon) 


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アルプス越えのナポレオン
実際、絵のような馬では寒いアルプスを越えられないためロバに乗っていたといわれており、ポール・ドラロッシュ作の絵ではロバに乗ったナポレオンが描かれている。

ナポレオン・ボナパルト
1769年8月15日 - 1821年5月5日

革命期フランスの軍人・政治家で、フランス第一帝政の皇帝ナポレオン1世(在位:1804年 - 1814年、1815年)。

革命後のフランスをまとめあげ、帝政を敷き、ナポレオン戦争と呼ばれる戦争で全ヨーロッパを侵略し、席巻するも敗北し、その後ヨーロッパの秩序はウィーン体制に求められた。
当時のイギリスの首相ウィリアム・ピットは、「革命騒ぎの宝くじを最後に引き当てた男」とナポレオンを評した。
一方でゲーテは「徳を求めたもののこれを見出せず、権力を掴むに至った」と評している。

今でもフランスを代表する英雄として抜群の知名度を誇る。

ナポレオン皇帝はラプラスに対して、 「お前の書いた本は不朽の大著作だと評判が高いが、神のことがどこにも出て来ないじゃないか」とからかうと、ラプラスは言った。
「陛下、私には神という仮説は無用なのです」

ピエールシモン・ラプラスは18世紀のフランスの数学者で、「天体力学」と「確率論の解析理論」の名著を残している。天文学、確率論、解析学に偉大な業績があり、ラプラス変換の発見者として有名である。

彼は「ある特定の時間の宇宙の全ての粒子の運動状態がわかれば、これから起こる全ての現象は事前に計算できる」と主張した。これを運命決定論という。ラプラスは神を捨てて、自然現象を客観的に表現しようとする態度をとった。

ところで、サイコロを振ったとき、特定の数字の目が出る確率は6分の1である。回数が少なければバラつきがあるが、何度も繰り返していくと6分の1に限りなく近づいていく。
しかし、もしサイコロの厳密な形状と、それが落ちる高さ、大気の流れや跳ね返る台の特性など全ての情報がわかっていたとすれば、正確な観測と複雑な計算によってどの目が出るかわかるとラプラスは考えた。

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Feytaud夫人による死後の肖像画

ピエール=シモン・ラプラス
1749年3月23日 - 1827年3月5日
フランスの数学者。
「天体力学」と「確率論の解析理論」という名著を残した。

「天体力学」においては、剛体や流体の運動を論じたり、地球の形や潮汐の理論までも含んでいる。数学的にはこれらの問題はさまざまな微分方程式を解くことに帰着されるが、方法論的にも彼が発展させた部分もあり、特に誤差評価の方法などは彼自身の確率論の応用にもなっている。

また、現在ベイズの定理として知られているものも、ラプラスが体系化したものであるので、ベイズよりもラプラスに端を発するという見方も強い。

ラプラス変換の発見者。決定論者としても知られる。これから起きるすべての現象は、これまでに起きたことに起因すると考えた。ある特定の時間の宇宙のすべての粒子の運動状態が分かれば、これから起きるすべての現象はあらかじめ計算できるという考え方である(ラプラスの悪魔)。
しかし、ラプラスの死後登場した量子論ではこの考え方は成り立たないとされている。


現在、予測できないのは正確な観測と運動力学など数学や科学が必要なレベルに達していないからであって、原理的に予測不可能という意味ではない。

もし仮に、瞬時に観測や計算を出来る者がいれば、サイコロを振った瞬間にどの目が出るかわかるはずである。

その仮想の者はラプラスの悪魔と呼ばれるようになった。ラプラスの悪魔は宇宙の全ての事象を瞬時に解析することができ、物の変化だけではなく、人の運命までも知るのだ。
ラプラスの悪魔とは、未来の決定性を論じる時に仮想される超越的存在である。

ニュートン力学の成功と、科学技術の発達は人類に日食を正確に予測させ、月にも行けるようにした。近代科学は人類をラプラスの悪魔にする事が目的かのごとく発展しつつあった。

仏教は因果説をとる。現在ある結果は過去に原因があるのだ。かりにその原因が本人の責任でなかったとしても、前世での業が現世に反映するのである。

ラプラスの悪魔は前世の情報を全てもっているのであるから現世に起こることは何でもわかってしまう。

一方、キリスト教は予定説をとる。どんなに善行を積もうと、悪行をしようと人の運命は神によって始めから決まっていて「全ては神の思し召しのままに」である。

しかし、全ての情報を把握するラプラスの悪魔さえいれば、人間がラプラスの悪魔になればキリスト教の神は不要となってしまう。神の仮説を否定したラプラスは、教会の旧勢力と対峙して国を統治するナポレオンには好意的に移ったことだろう。

しかし、ドイツのハイゼンベルグが不確定性原理を見出し、この瞬間、ラプラスの悪魔は消滅した。

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ヴェルナー・カール・ハイゼンベルク
1901年12月5日 - 1976年2月1日
ドイツの理論物理学者。
行列力学と不確定性原理によって量子力学に絶大な貢献をした。

ドイツ南部バイエルン州ヴュルツブルクに生まれる。
ミュンヘン大学のアルノルト・ゾンマーフェルトに学び、マックス・ボルンの下で助手を務めた後、1924年にコペンハーゲンのボーアの下に留学。ボルンとパスカル・ヨルダンの協力を得ながら、1926年に行列力学(マトリックス力学)を、1927年に不確定性原理を導いて、量子力学の確立に大きく寄与した。

1932年に31歳の若さでノーベル物理学賞を受賞

量子力学の微細な素粒子について考えてみる。ラプラスの悪魔は過去、現在、宇宙の全ての事象に関する情報を持っていて、瞬時に解析できるのだが、素粒子の情報を得るには観測をしなければならない。

例えば電子の位置や運動量を知るために観測する。電子は微細なので間接的な観測が必要だ。

電子の位置を知るためにガンマ線など波長の短い電磁波を当てたと仮定する。

電磁波が電子に衝突すると、電磁波の跳ね返る方向から電子の位置がわかる。しかし、波長の短い光はエネルギーが強いので電子も跳ね飛ばされてどこに飛んだかわからなくなり、運動量が測定できない。逆に運動量に影響しないように長い波長の電磁波を当てると運動量はわかるが、弱いエネルギーの電磁波は波長が長いため上手く電子に当たらず、位置がわからない。

量子力学の世界では測定される物に影響を与えないで位置や運動量を正確に測定することは不可能である。これが、ハイゼンベルクの不確定性原理である。この関係は時間とエネルギーにおいても成り立つ。ハイゼンベルグは不確定性原理でノーベル賞を受賞し、後にナチスドイツの原爆開発の責任者となった。

しかし、観測をしてもしなくても物はそこにある。厳密にはそこにあるとわかるのは光を当てるか、触れるなどして観測しているのだが、物があるというのは実感として否定されないであろう。

不確定性原理は単に量子力学の世界にたいして観測器具の限界を論じているに過ぎなく、観測されるものに影響を与えない方法が観察されればラプラスの悪魔は復活すると考える学者も多い。



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