天上の音楽1
「天上の根源は数である」
ピタゴラスがきっぱり言い切ると、タレスと弟子たちの影は消えた。
タレスを慕って故郷を離れた彼も万物の根源をめぐってタレスや弟子たちと対立した。頑固なまでの信念と、容赦のない切り捨てによって、ピタゴラスは周囲から恨みを買っていた。
ピタゴラスは腹部に受けた傷の痛みを忘れて、過去を想った。
「数直線は整数や分数だけが作るのではない」
声が聞こえた。顔は見えないが無念の声には覚えがあった。
「ガニュメデスだな」
ガニュメデスは教団の決定に反して無理数の存在を最後まで主張したため、ピタゴラスに殺害されたのだ。
「ガニュメデス、無理数の存在はすでに認めた。私は家畜に生まれ変わることを願っている。できたらお前に仕えさせてくれ」とピタゴラスは声をかけたが、闇だけが広がっている。
彼は傷んだ身体を横たえながら夢を見ていた。
サンスカラーの法理